松本城忍衆 烏-KARASU-



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メンバー
石川玄斎
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戸田美影
松平樹
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水野氷冷

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忍び襲来(1613年) 其の二

「(見事な城だ)」

忍び装束の男は氷冷の猛攻をかわし、五階の押し窓に足をかけて内部を見渡している。
薄暗い廊下には所々にロウソクの炎が灯されているが、人の気配はない。
しかし油断は出来ない。氷冷のような優秀な忍びがこの城には居る。
男は意を決して場内に侵入した。

すると突然、目の前に人影が現れ二刀の小太刀で斬りかかってきた。
男は不意をつかれたが、背に帯刀していた小太刀を抜き応戦した。
一瞬にして五手ほど刀を合わせ、どちらからともなく距離をとった。

紫色の艶やかな忍び装束に真っ直ぐ下ろした長い髪。
肩掛けが口元まで覆い、両手には小太刀。白木柄は逆手に持っている。
第三守隠密・戸田美影である。

「(何処にいた・・・なぜ気配を感じなかった・・・)」

男は小太刀を逆手に持ち替え、防御の姿勢をとった。
美影の出方を探るつもりである。
美影は 構わず攻撃を仕掛けた。

「(左、袈裟(けさ)、右、逆(さか)、左、左、袈裟、突き…)」

男は美影の攻撃を全て小太刀で受けながら美影の力量を図っていた。
美影による二刀小太刀の猛攻を、男は一刀だけで確実に防いでいる。
薄暗い廊下に刀を合わせる音だけが響き渡る。

「(隙もなく良い動きだ、素早さ、間合い共に申し分ない。)」

美影は猛攻を続けながらにして逆手に持った小太刀の人差し指と中指を突き立て、忍術の構えをとった。

「深志流忍法武装強化術 [炎羅(ホムラ)]」

白木柄の小太刀の刀身に炎が纏い、更なる猛攻が男を襲った。
しかし男は冷静に全ての太刀を防いでいる。

「(強化術か。炎を纏った小太刀も、防ぎきれば目眩ましと変わらぬ。)」

しかし炎を纏った小太刀を防御するかしないかの次の瞬間、目の前の美影が一瞬にして“消えた”のだ。

「(何!?)」

そしてそれとほぼ同時に背後に殺気を感じ、とっさに身を翻した。

「がぁっ…!!」

突然背に燃えるような熱と痛みを感じ、そのまま前方へ飛び退いた。
身を翻したお陰で致命傷は避けたものの、背後から一太刀あびたことだけは理解していた。
振り返ると炎を纏った小太刀を持った美影の姿。

「(はじめからこれが狙いだったのか。…しかし確かに目の前から“消えた”。あれは一体…) 」

「お見事です」

男は眼を疑った。
目の前の美影の影から現れたもう一人の“美影”。
手には何も持っておらず、口元の肩掛けも肩まで落ちていること以外は、先ほどまで戦っていた目の前の美影と全く同じであった。

「(新手か…?)」

現れた美影はゆっくりと先ほどまで戦っていた美影に近付いてきた。

「第三守隠密、戸田美影。お相手願います。」

そう言うと先ほどまで戦っていた美影の前に立ち、2人が重なる形となった。

「深志流忍法具現術 [武具・二刀小太刀]」

美影の両手に先ほどまで戦っていた美影と同じ二等小太刀が現れた。

「(具幻術か。なんという再現力…厄介だな。)」

具幻術というのはその精度が精工であるほど厄介なものである。
何の疑いもなく今見えている物、触れている物すべてが突然消える事もありえると同時に、見知らぬ物が突然現れる事もあるからである。
と、ここで男があることに気が付いた。

「(まさか…この二人…)」

そう、最初に戦っていた美影は具現化されたものではないかということである。
仮にそうだとしたら、最初に何の気配も感じなかった事や、突然消えたり現れるというのも考えられる。
しかしここまで精工に人を創り出し、更には忍術までも操る事ができるものだろうか。

「参ります」

2人の美影は一斉に男に襲いかかった。
2対1の攻防、刀の数で言えば4対1である。
この攻防にはさすがに対応しきれないとふんだ男は一度階下へ降りようと振り返りざまに走り出した。

しかし目の前に美影が現れた。 完全に挟まれた形である。

「くっ…(やはりこやつ具幻の者か!)」

逃げ道を失った忍びは前後からの美影の猛攻に耐えきれず、ついには侵入した押し窓から飛び降りた。

「あっ!」

美影は窓から外を見下ろした。

「伊賀流忍法 疾空の術!!」

氷冷の猛攻から逃げたときの術である。
飛び降りた男の身体がふわりと浮きあがり、そのまま天守最上階に向かって跳ね上がった。

「いけないっ!秀!!」

美影はそう叫ぶと階段へ走った。

つづく

※すべてフィクションです。

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