松本城忍衆 烏-KARASU-



ホーム

バイオグラフィー

メンバー
石川玄斎
小笠原秀
戸田美影
松平樹
堀田楓
水野氷冷

イラスト

エピソード

オリジナルグッズ

小笠原秀 vs 松平樹

服部半蔵来訪の翌朝、秀は庭園内を守る第四守・松平樹の力量だけが図れていないと言及した。
半蔵と樹はかつての同胞だったため、玄斎があえて対面を避けさせたのであった。
もともと玄斎は樹の力量を見込んでいるとはいえ、加入したばかりの秀が納得出来ないのも無理もないとして、彼らに組み手の試合をさせることにした。

「良いな、互いの力量を知るための組み手だ。決して深手を負わせることの無いように。」

場所は天守の地下に作られた100坪程の忍衆専用の鍛練場。忍衆が修行を行う場所である。
地は土、壁と天井は厚い石で覆われた耐火耐水性のある作りである。

忍衆の面々は皆立ち会いに地下鍛練場へ向かったが、そこに楓の姿だけがなかった。
楓は修行をすると氷冷にだけ告げて外堀へ向かっていた。

「なぁ、楓元気なかったけど大丈夫か?」

「大丈夫だ。あとで様子を見に行く。」

「大丈夫」と言いつつも、いつも元気な楓が落ち込んでいる姿には氷冷も心配なようだ。
とはいえ半蔵をも唸らせた秀の実力に興味があるといったところだろう。
そうこうしているうちに鍛練場へ着いた。鍛練場の壁には竹刀や木造手裏剣、台にもクナイなどが一面に並べられている。 秀と樹が中心で向かい合ったところで玄斎から説明があった。

「この試合に勝敗はつけん。互いに好きに戦って良いが、相手に深手を負わせぬため樹は鉄甲の使用を禁ず。無論秀の刀も認めん。代わりにこれを使え。」

そういうと玄斎は美影から竹刀を受け取り、秀へ手渡した。

「竹刀かよ。これじゃ居合いもできないな…」

「ま、俺は構わないぜ。秀は不満だろうけど。」

樹は微笑みながらバシッと拳を胸の前で付き合わせると、 不満そうな秀だったが竹刀を一振りし「お前ごときこれで充分だ」とつぶやいた。

「それともう一つ、秀。ここなら如何なる忍術を使っても大丈夫だ。故に内部結界は禁ずる。良いな。」

「あぁもともと使う気ねーよ。内部結界も三階菱も、使ったらこいつ殺しちまうからな。」

そう言いながら秀は首に巻いていたスカーフを口先まで覆い、それを聞いた樹は「っは!真顔で言うんじゃねーよ。」と笑った。

「では始めるぞ。構え!」

玄斎の合図で樹が先に拳を正面に構え、続けて秀が居合いの構えをとった。
美影と氷冷は鍛練場の隅で静かに見守っている。

玄斎の「始め!」の合図で秀が正面から飛び込んだ。
秀の一太刀目は正面からの居合いだったが、樹は後退しながら後ろへかがみかわした。しかし樹が反撃に出る気配はない。そこから秀の猛攻が始まった。しかし樹は一見オーバーともとれる動きだが、全ての太刀を悠々とかわしていく。

玄斎は一歩ずつ後退し、美影と氷冷の元に歩み寄りながら「秀も成長したな」と言った。

しかし先般、半蔵と秀の戦いを見守っていた美影は「違う。」とつぶやいた。それを聞いた玄斎は「何が違うのだ?」と言ったが、美影が応えるよりも先に氷冷が口を開いた。

「確かにな。この程度の動きで半蔵様を追いつめられるはずもない。」

氷冷の言葉には一理あった。玄斎の目には確かに成長した秀の姿が映ったのであろうが、ひいき目に見ても半蔵にかなう程ではなかった。
もはや秀は何太刀振るったかわからないが、 樹には一太刀も当たっていない。樹は竹刀を真剣と見立て、全ての太刀を見切って“防ぐ”ではなく避けているのだ。

「おいどうした秀?これじゃいつまで経ってもかすり傷ひとつつかねーぞ?」

樹の人並はずれた体力に負け、秀は一旦距離をとり忍術の構えを見せた。
樹は 「おっ!いいねぇ来いよ。受けて立ってやる。」と秀の忍術にも興味を示し、防御の姿勢を取った。
「黙れ。」

「深志流忍法召喚術 烈火!」

「・・・・・・・・・・プスプス・・・」

「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」

秀の指先からかすかに煙が上がった。

「・・・あれ?」

「はっはっはっはっはっは!どうした不発かおい!」

「・・・なんだあれは」「・・・やはりか」「・・・秀」

一同から込みあげる失笑に秀はたまらず「黙れ黙れ!」と再び斬り込んだ。
すると樹も再び秀の太刀を避けながら、

「情けねぇな秀。じゃあそろそろ“拳が凶器”ってやつを見せてやるよ。」

樹は秀の右薙ぎを大きくしゃがんでかわし、同時に左足で秀の足を払った。大きくバランスを崩した秀を横目に樹はそのまま1回転し、飛び上がると同時に秀の右頬に裏拳を放った。

(ゴッ!!!)

「っ・・・!!」

秀の口元を覆っていたスカーフははじけ飛び、口内は切れ、意識が遠のく程の衝撃受けた。たまらず秀はその場に倒れ込み、なんとか起きあがろうとはするが地を這うのが精一杯だった。

「どうよ気分最悪だろ?俺が鉄甲なんかしてたらお前の首飛んでたぜ?」

樹の言葉は決して大げさなことではなく、その通りであった。
秀の脳内は天地がわからない程にグラグラ揺れ、切れた口内からは血が滴っていた。
このとき秀は初めて、樹のいう“拳が凶器”というものを身を以て知ることとなった。

「勝負あったな。見る価値もない。楓の様子を見てくる。」

そう言い残し氷冷は鍛練場を出て行ったが、玄斎も「あぁ、頼む」美影も「うん」とだけ言い、引き留めはしなかった。

「確かに・・・、少しはやるようだな。」

「ほんっとに口先だけは一人前だなぁお前は。そんな布っきれじゃ俺の拳は防げねぇぞ。」

そう言いながら秀のスカーフを指さした。
秀は右手に竹刀、左手には床に落ちたスカーフ取り、ゆっくりと力無く立ち上がった。
すると秀は片手でおもむろにスカーフをたたみながら鍛練場の隅へ移動し、クナイ等の忍び道具が置かれている台の上へ丁寧に置いた。

「これはな、隠密認可の祝いとして登久姫様から賜ったものだ。」

「あぁそうかい、そういうのはいいからさっさとかかってきな。ここからは俺も反撃するから覚悟しとけ。」

樹は笑いながら構えを取り、秀を挑発するように人差し指でちょいちょいと手招いた。

「そんな“布っきれ”だと?」

そう言いながら振り向くと、秀の表情は怒りに満ちていた。
「おぉいいねぇその表情。さぁかかって・・・」 とまで言いかけたとき、先ほどまでとは比べものにならない速さで襲いかかってきた。

「ぶおっ!!」

間一髪右薙ぎをかわしたが、そこからの二太刀目、身を回転させての逆袈裟で遂に樹は右腕の甲で防いでしまった。 「ちっ。」っと舌打ちして竹刀から秀に目を向けると、秀の左手は忍術の構え。

「烈火!!」

(ボオオオオッ!!)

「つっ!!あちちっ!!!」

半蔵に放ったときほどの威力はなかったが、目前に発生した炎が樹の身体を吹き飛ばした。
直接的なダメージは大きくなかったが、尻餅をついた樹が前に目を向けるとそこに秀の姿はなく、振り返ろうとした瞬間、「ピシィ!」っと首筋に竹刀が当たった。

「真剣なら、貴様の右腕と首は飛んでいた。」

先般言い放った言葉を倍にして返され、樹は「やるじゃねぇか」と笑った。

舞台袖では玄斎が「美影…このことか。」と問うと、美影は「はい。」とだけ応えた。
玄斎は目の前で起きた秀の変化にとまどいを隠せなかった。

「ちょっと見くびってたなこりゃ。もう油断しねーぞ。」

樹は立ち上がって構えると、「そういうことにしといてやるよ。次は言い訳できねーからな。」と居合いの構えをとった。 そこからの攻防はこれまでとは桁外れに速く、しかし互いに一撃も当たることなく全ての攻撃を避け続けた。

「秀の奴、だいぶ動きが良くなったな。本調子までに時間がかかるようだ。氷冷にもこれを見せたかった。」
玄斎はそう言ったが、美影は“本調子までに時間がかかる”という表現にどこか違和感を覚え、応えることができなかった。

押しも押されもせぬ攻防が続いたが、やはり体力面では樹に分があるためか、秀は一旦距離をとった。
「どうした?忍術勝負か?」 との問いに秀は応えず、ゆっくりと足を引きずりながら樹の周りを回り始めた。
その動きは一定ではなく、直線的ではあるが若干近付いたかと思えば離れることもある。

「おい何のつもりだ秀。体力回復の時間稼ぎならこっちから行くぞ!」

今度は樹が秀に飛びかかり、再び激しい攻防が始まった。
しかし秀は時折足を引きずりながら後退するといった奇妙な動きを見せている。

「秀、足を痛めたのでしょうか?」

「いや、そのような手は見受けられなかったが…」

玄斎と美影も不思議そうにその攻防を見守っているが、一番困惑しているのは樹であった。

「おい秀!何のつもりだ!」

激しい攻防の最中、秀は樹の問いに「できた」と応えた。樹はぽかんとした顔で攻撃の手を止めた。
すると秀は大きく樹から距離を取り、

「足元見てみな。」

樹は足元の周りを見渡してみたが、別段変わったことはなく秀が引きずった足跡だけが残っていた。
「なんなんだよ」というと、玄斎が気付いた。

「これは!・・・三階菱紋!?」

そう、秀は樹の周りに大きな三階菱を描いていたのだ。

「玄さん、御名答。」

と言うと、秀は左手で忍術の構えをとり、右手で「パチン」と指を鳴らした。すると・・・

(ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!)

秀が描いた三階菱の中に大爆発が起こった。

「樹っ!!!!!!!!」 「樹さんっ!!!!!!!!!」

玄斎と美影は爆煙に近寄ったが、爆煙の量が多く樹の姿は確認出来なかった。

深志流忍法小笠原式 紅蓮[グレン]。死んじゃいねーよ。だがこれで戦闘不能だ。」

そう言いながら秀はスカーフを置いた台の方へ歩みを進めた。

「秀っ!!」「秀、お前という奴は!軽々しく危険な術を使いおって・・・」と秀に詰め寄ったとき・・・

「ふぅ・・・危ねぇなこのヒナガラス。」

爆煙の中から樹の声が聞こえた。
「樹さん!?」と爆煙の中に美影と玄斎が数歩近付くと、しっかりとした防衛術で守られている樹の姿があった。
美影は胸をなで下ろし、玄斎も安堵したようだ。

「ヒナガラスだと・・・?」

振り返った秀にも樹の防衛術が目に入った。

「よぉ、防衛術は得意中の得意なんでな。防衛術なら半蔵さんにだって負けねーよ。」

「ふん。臆病者には似合いの特技だな。」

「んだとコラ!!」

樹が秀に詰め寄ろうとしたとき、「そこまでだ!やめんか二人とも!!」と玄斎が止めに入った。

「これでもう互いの力量はわかったであろう。どちらも良い働きを期待しているぞ。」

うまく玄斎にまとめられたようだが、この組み手により秀も樹も互いの実力だけは認めるようになっていた。
相変わらず犬猿の仲であることには代わりはなさそうだが、この先互いの持ち場に口を出すことはなかった。

※すべてフィクションです。

イラストプラス